古びた表紙と褪せたインク




[0] 古びた表紙と褪せたインク

投稿者: ? 投稿日:2019年10月 5日(土)11時50分34秒 222-229-113-169.catv.medias.ne.jp

皆様により綴られた長文ソロルや背景描写を収納





[8] 狂った先に、

投稿者: 投稿日:2019年12月 6日(金)20時39分13秒 fp276fc537.stmb229.ap.nuro.jp  返信

 _________"日記を、つけているんです。"
 _________"忘れない、ために。楽しかった事も、失意の底に落ちた事も"
 _________"其れが、俺の全てだから"



 目が、覚めた。
 何があったんだっけ……?………嗚呼、そうだ、実験だ………はかせの話では、まだこの年齢じゃやらない、と言ってたのに。
 "特別"なのだと言った。今の自分の為には、必要な事なのだと。貴方がそう言ったから、いたいのもくるしいのも耐えてみせた。
 変わりたかったから……、どうしたらもっと変われるのか、と考えていたから。

 いつも通りに夜着を脱いで何時もの服を着て、髪型を確認しよう、と何気に見た時。


 ………だれだ、?この、映っているひとは。



 …酷く髪色は薄く、目は不透明に濁っている。



 …違う、ちがう、これは自分では、ない!!!
 …認めろ、これがお前だ。



 認めたくない自分と、第三者目線で、酷く冷静な自分。
 どっちがほんとうの、自分なの?
 分からない、わからないよ。


 その事実から逃げ出す様に、その場を走り去っていた。誰かが自分を呼んだ気がしたけど、きっと気のせいだ。



 …無我夢中で逃げ出したその先は、図書室だった。
 時間を潰すのには、うってつけだろう。幸い、自分の姿を見れる様なものもない。きっと、自分のこの姿を、皆は気味悪がる筈だから。
 朝御飯は食べない。はかせか、仲間が探しに来るまでは、ここにいると決めた。


 …………。




 ___きっと、認めたくなかったのだろう。そう、思う。
 今こうして自分を受け入れることが出来た今、あの時の自分の行動はきっと正常だったのだと、思う。そう思わねば、やっていけなかった。
 今でも時々、吐き気がする。御飯が食べれなかったりもする。皆とは変わってしまった気がした。
 きっと、こうやって変わりたくなかったのだ。もっと、彼に近付ける様な、そんな風に。

 あれから自分は本にのめり込み、知識は此処で争う位になった。仲間からは"教授"とからかわれる様になった。

 そう、憎い事に、あの日を切っ掛けに変わることが出来たのだ。

 絶望の先には、一筋の、微かな光があった。


 けど、自分はあの日のはかせを許すことは出来ない。当たり前だろう?裏切られたのだから。彼の吐いた言葉は、自分には必要ない変わり方だったから。

 今の、今の自分。せかいを知ってしまった自分は、今ここにいると価値はあるのだろうか、と考える。
 冷静な自分と、感情的な自分。



 どっちが、ほんとうのおれなのかな。




[7] 歪んだ愛情と独占欲の発端。

投稿者: 投稿日:2019年11月 2日(土)08時02分37秒 222-229-113-169.catv.medias.ne.jp  返信   編集済

(幼子に優しさを覚えさせる方法)





太陽に透ける美しい金髪を長く靡かせ、ぷっくりと柔らかな桃色の唇を歪ませた白衣の女性は、似た容姿をした幼子を膝元に寝かせて、絹のような肌触りの短い髪を撫でた。彼女の膝に頭を預けて眠る幼子、基、サファイヤのような輝かしい瞳を持った少年は、その大きな瞳に涙を滲ませて、儚く揺らし、彼女の髪を撫でる優しい手つきに甘えて、分厚く生い茂った睫毛を伏せて瞳を隠す。
ポロリと零れ落ちた大粒の涙は、少年の透明感のある白く、少しばかり赤く染った頬をするりと滑って、彼女の着る白衣に染みた。
静かに涙を流すだけだった少年は、次第に鼻を啜り始め、気付けば嗚咽を小鳥の囀りのように鳴らして喉を引き攣らせるように泣き始める。自分の泣き顔を隠す様に少年は彼女の白衣に顔を埋めて押し付けたが、彼女はそんな少年を咎める様子は無く、彼女の持つラピスラズリの様な深い青色の瞳は、少年を慈しむように軟らかく細められた。

仄かな朱色の灯りが不明瞭に辺りを照らしている。二人がいる寝台は暖かな羽毛でできていて、ゆらりゆらりと揺り椅子の様に彼女が身体を揺すってもスプリングが軋むことなく引かれたマットと毛布が浮き沈む。
レースカーテンに隠された窓の外は真っ暗で、夜であることが見て取れる。

彼女は少年を慰めていた。

幼子の金色の絹糸は飴細工の様に透き通り、隠された瞳は宝石みたいに照り輝いていることだろう。頬はきっときめ細やかで健康的に白く、頬や鼻先、目頭はほんのりと紅い。そんな上品な容姿を授かった少年の小さな胴からスラリと伸びた手足は、痛々しいまでに包帯を巻かれ、所々に打撲したような変色部分がある。

少年は、幼子には似つかわしい紫色の変色と、もう一つ皮膚を被るように巻かれた包帯は然る事乍ら彼女の豹変したような優しさにも恐怖して泣いていた。

「ごめんね、グルッペン。やらなきゃ行けなかったのよ。私と貴方との幸せを守るためだったの。」

肩を小刻みに震わせながら上げる少年の情けない泣き声を打ち消すように、彼女は僅かな微笑を浮かべたまま少年を強く抱き締めて、消え入りそうなほど小さく、また溢れんばかりの愛情を込めながらそう言った。

「もうやらないわ。約束する。愛しているもの、可愛い可愛い私の子。」

二人が互いに抱き合う姿は絵画のようだが、実のところ歪んだ愛情が少年には注がれ、愛情には反して彼女の"幸せを守るためにやらなければならなかったこと"の残酷さを少年は泣き声とともに顕にしていた。
野鳥は木々の間で眠りにつき、空に浮かび上がった美しい月も姿を東に傾けることだろう。
少年と彼女しか住んでいない、二人の屋敷は不気味なまでにしんと静まり返り、二人がいる部屋からのみ光が溢れて、音が響いている。
季節は冬だった。凍るような寒さはストーブの傍で抱き合う二人には届かないが、部屋と廊下を隔てる扉から感じた静寂に、少年をあやす前の彼女は震えていた。
静かな空間に侘しさを感じていた彼女は、優しく撫でていた少年の鼻を啜る音に安堵し、小さく縮こまりこんだ姿への愛おしさを含めて笑った。少年はただひたすらに、彼女に人知れず怯え、一度は赤色に染まった恐ろしい手が与えてくれる変わり映えしない優しい手を甘受していた。瞳から流れていく大粒の涙は止まる気配がない。

次第に大きかった少年のボーイソプラノは小さなものになりつつあって、鎮火したように鼻を啜る音だけが響くようになった。暫くすれば眠りにつくだろう。
彼女の腹部に擦り付けた金色の絹糸も、涙でベタベタに濡れてしまった白い頬も、重なる睫毛に隠されてしまっているサファイヤの瞳も、両腕両足に巻かれた痛々しい包帯も、乱れているが直されることは無く。しゃっくりのように喉が引き攣り痙攣する声を押し殺しながら、少年はくたりと力を抜かし彼女に身体を預けた。

彼女は憐れな少年を抱き上げて、共に寝床についた。
包帯の上から、恐らくもう傷は癒えたであろう腕を撫で、胴を撫で、幾つもの口付けを少年の濡れた頬に落とす。着ていた白衣は何時しか床に捨てられていた。
彼女の着込む薄手のカーディガンの袖から伸びた細い指先が、少年の髪や頬をガラス細工を触るかのような手つきで触れる。
少年は笑った。
全身を包む毛布の温もりや、彼女の優しさが自分後眠ってもな与えられ続けていることを、意識を夢へと移行しながら感じ取れたから。
きっと今夜はぐっすりと眠れることだろう。朝はもう近いが、此処には誰も早起きを催促する人間はいない。
彼女が少年の眠る寝台から身を出して、広い額にひとつだけキスをした。

「おやすみ。私の可愛いグルッペン。」

______
という夢を見た。第三者からの見た俺たちだった。
優しい母の姿は今の俺と重なり過ぎて、起きても尚ずっと脳内に留まり続けている。
あの頃はただただ優しいだけの母かと思っていたが、蓋を開ければ歪んでいた。可愛いと称された幼い頃の俺は涙を流す為の震えだと偽装して彼女に怯えていた。
次第に和らいだが、確かに恐怖の色を空気に滲ませていた。

俺は愛する人間を怯えさせて泣かしてしまうような失態はしないだろう。俺が母に怯えていたのは、初めて"はかせ"としての彼女を見たから。あの夢の続きはきっと幸せの色だけが溢れて仕方が無い。母に怯えていた俺は、母から与えられる苦しみを愛情として受け取るようになり、母は滅多に苦しみなんかを与えない。
母は俺が四歳になってから半年ほど経ったある日に姿を消したけれど、夢の中の俺達には永遠の幸せを、二人だけの幸せを味わって欲しいと思う。
そんなことどうでもいいけれど。


「お母様。大好きでした。」

貴方の優しさは今、俺に受け継がれて、俺の兄弟にも行き渡っています。



[6] 見たくもない現実が

投稿者: 投稿日:2019年11月 1日(金)06時42分11秒 fp276fc537.stmb229.ap.nuro.jp  返信

 苦しい、くるしい。

 まっしろい部屋。はかせと、知らない人が沢山いて。はかせが握っているのは、本でしか見たことがなかった注射器。
 あれが自分に刺されて、暫くしてから変化が現れた。
 熱い、あつい、暑い、

 ……さむい…?

 押し寄せてくる感覚が全く別のもので、ただただ苦しくて。目の前にいるはかせ達はそんな様子、分かってる筈はのに助けてくれない。
 何故?
 息が出来ない。口を開いて酸素を体に入れようとするのに、それすら許されない。喉が締め付けられて、焼けているようで。声もだせない。
 早く楽にしてほしい。こんな苦しいの、ずっと感じていたくない。
 それを訴えようと、はかせの方を見て______。




 目が覚めた。
 ばっとベッドから起き上がる。息が荒い。気持ち悪いくらい汗をかいている。

 …………夢、か。

 カレンダーを見れば赤い丸がついていて、嗚呼そうか、と思いだす。

 ……毎月、この時期になると、見てしまうんだ。
 初めてやった、実験のことを。
 十三歳になる前にやった、あの実験。最初は訳が分からなくて、言い様のない恐怖に襲われて。

 …で、あのこと。

 忘れたいのに、忘れない。忘れられない。あの日が、まるで呪いの様に自分にのしかかってくる。
 自分の肌は気持ち悪いくらい白くなって、目は不透明に濁り。髪は薄く、色が変わってしまった。
 外だけじゃなくて、中も変わってしまった。体温調整がしずらくなって、物事を忘れてしまう事が多くなって。
 君達が嫌わなかったからこそ、この自分と向き合えるけれど。もし嫌われていたら………………、いや、考えないでおこう。得体の知れない恐怖に襲われるから。

 汗を流そうとベッドを出る。
 今日は、勉強も本も読める気がしない。いや、見たくもない。はかせの顔も。どうしようか。ご飯も正直………、席には出るけれど、軽いものだけで言いと言っておこう。



 ……今日は、今日くらいは………、背伸びなんて、しなくてもいいだろうか。



[5] せかいでいちばんあなたがきらい。

投稿者: 投稿日:2019年10月31日(木)21時42分36秒 softbank126161164057.bbtec.net  返信

俺が、はかせという人物を誰よりも嫌っているという事実は、このせかいに居る誰しもが知っていることかと思う。
そんなものに興味など湧かない子も居るだろう、それならそれでいい。
俺が今から起こす行動は、たったひとりでの、はかせに対する抵抗なのだから。

"小さな戦争"の、始まり。



――――――――――

はかせは、ドジである。
君たちは知らないだろう、アイツが転びそうになったり、階段を踏み外しそうになっていたりすることを。
…そんなに転びたいなら、俺が手伝ってやろうじゃないか。





外から聞こえる弟たちの声を聞きながら、廊下の壁に背中を預けさせて貰い、アイツを待つ。アイツの為に俺の時間を削るのは嫌でしかないが、これから起こるであろう出来事を想像すると、口の端が吊り上がってしまう。
口元をマフラーで隠して、視界の隅に"標的"が映ったことを確認すれば、問答無用で俺は脚を差し出してやった。

_案の定、はかせは転ぶ訳で。
あんたは俺を睨みつけるように見上げてくるけれど、そんなもの痛くも痒くもない。
鼻で笑って、俺は被り物を取って、あんたを見下してやろう。
情けないはかせの姿だ、しっかりと目に焼き付けておかねば。

俺の勝利。


「だっさ。」




ぽつりとそう溢した俺の声は酷く冷たくて、もしも弟たちが帰って来てこの現場を目撃しようものなら、泣いてしまうのではないかと恐れたくらいだった。
何か言おうと口を開いたはかせの手が、ちょうど踏んでくれと言わんばかりの状態であったから、靴でそれを踏みにじってやろう。
痛いか?_いいや、痛くないか。お前が与えている痛みは、こんなものでは済まないんだぞ。


体重を前へ前へと掛け、抉るように、手を、もぐように。
はかせの手が、俺の足首を捕らえたから、慌てて蹴り払って後退り。
お前のペースには、乗っ取られないさ。



はかせに向ける俺の赤い目、汚いだろう、潰してしまいたいだろう?
残念、お前が潰したとしても、俺の目は死なないさ。ふっと歪に口角を上げ、はかせに背を向けよう。これくらいにしないと、君たちが来てしまうから。
ふわりとマフラーを漂わせ、俺の黒髪は微かな風で揺れる。そんな冴えないひとつの作品を、はかせは優しさと共に切り裂いてくる。

俺の首輪を引っ張るはかせ、それは苦しいと何度も言っているじゃないか。
わかった、降参、降参すればいいんだろ?
でも、俺のすべてを握っているのははかせで、降参なんてしたくないに決まってる。負けたくないもの。
聞き分けのいい犬じゃないのだから、そんな扱いしないでくれ。
ほんの少しの願いは空気に溶けて消えた。





結局、目覚めたのは俺の部屋のベッドの上。優しいはかせが運んでくれたのだろう、要らないお世話だ。
心地よい風と共に聞こえてくるのは君たちの声、今日もしあわせそうで何よりである。

窓に映るは俺の顔。今日も瞳は赤色で、きもちわるかった。



俺の被り物、何処に行ったんだ?



[4] 何をされているのか?哀れだ。

投稿者: 投稿日:2019年10月31日(木)01時34分44秒 222-229-113-169.catv.medias.ne.jp  返信   編集済

~
ほぼ瀕死状態の身体はピクリとも動かないけれど、唯一救われた顔面の神経は気が滅入るくらいすり減ること無く、普段は浮かべられないような笑顔さえ容易くこなす事が出来た。
真っ白なボックス型の広い空間と、その中央付近に俺が作った真っ赤な水溜まり。そして目線の先に白衣を着た十数人の退屈そうな顔の大人がガラス越しに此方を見詰めているのが眺められる、俺の視界。
目線が合う見慣れた男の姿を俺は少しも目を離すことなく、刺すように見詰め続けている。
俺がいる空間と、大人たちが集まる空間は分厚いガラスで隔ててあって、そのガラスはきっと防音性だろうだろう。数回前の実験で、意識を落とす前。機械の故障か環境の変化か誰かが此方に向かって険しい顔をして、声を張り上げるように口を開閉していたのを見た気がする。然し、恐らく悲痛だっただろう、記憶の人間が叫ぶ言葉は一切聞こえることがなかった。

「もう終わりか?」
「まだ、まだ腕と脚が残ってるんだぞ。」
「おい。腹を割いただけじゃないか。」

実現後の疲労と、物理的に与えられた負担に声帯は震え、馬鹿にされてしまいそうなほど情けない声で告げてしまった。
ガラス越しの貴方には聞こえないだろうか。
地に堕ちた小鳥を憐れむような眼差しで俺と目線を合わせていた男に唾を吐いてやろう。
意識を飛ばさないような楽な実験をするような人ではないだろう。貴方は何時でも冷徹で、俺たちの泣き叫ぶ声にだって恍惚としているじゃないか。聞こえないフリをして、まるで賛美歌でも聴くみたいに鼻歌だって歌っている。
そんな貴方が、倒れる俺に、赤に塗れる俺に、地に這い蹲る俺に向ける感情は慈悲だろう。
優しい貴方。それを引き摺って俺にばかり実験をさせる訳にはいかないと回数を他の奴らに均等に分けるような、そんな狂人じみた事はしないでくれ。

俺が、俺がどんな思いをして、貴方の実験を受けているのか、貴方は知らないだろう。
そりゃぁ、メスを片手に初めて血を触る少女みたいな細かな震えを身体に施す貴方が、俺の気持ちなんて知る由もないけれど。

去って行ってしまう。黒色のファイルを片手に持った貴方が俺に背を向けて、他の白衣を着た人間と話しながら足を進めた。
そんな。
そんな。
そんな。
俺は貴方に十分な実験結果を残すことが出来なかったというのか?何時もなら、普段なら、こんなに早く終わらないだろう?再生後に2、3度立て続けてする時だってあるだろう?
蛞蝓の様に汚らしく床を汚しながら、腕で身体を引き寄せて進む。裂かれた腹からは動く度にポンプが押されたように血液が飛び散るけれど、減れば増える、減れば増える、無くなれば作られ、無くなれば作られる、当たり前だけど化け物みたいな体質を持った俺なんかが、特に気にすることじゃない。

「俺が、俺が悪かったのか?」
「ははっ、逃げるのか?意気地無しめ。」

振り向いた貴方が笑った。
何処か哀しそうで、楽しそうで、余裕を感じる、俺を見下すみたいに目を細めて、口角を上げている。

取り残された俺はガラス越しにあった人影さえ見つける事が出来なくて、高い天井を見上げた。
再生する事も諦めつつある腹部の傷は全くもって塞がる気配を感じられなくて、空気に触れる度に電流を流された時みたいなピリリとした痛みが走る。自分の赤でベチャベチャに汚れてしまった髪の毛や、服や、手脚が不快で仕方が無い。処置もされなければ、始末もされないのだからなんたる地獄か、例えようも無いし例えたいとも思わなくて。
貴方は逃げ去ってしまった。否、きっと理由はあるのだろうけど、その理由が分からない俺からすれば、微笑を浮かべて再び背を向けた貴方の背中はまるで"これ以上僕は君を傷つけられないよ。"とかなんとか、情けない台詞さえ聞き取れた。
やっぱり貴方という人間は情けない人だ。
そして、とても不思議で残酷な人だ。
中途半端に中断された、中止された俺の実験と、処置と始末もせずに放置された現状、隠す様に腕に抱えたファイルと、首から下げていたタイマー。
開閉される口の動作なんかは見て取れたけど、声が聞こえるはずも無く、只々、考察なんて伸びない程に奇妙な状態のまま貴方達は去り、俺は取り残された。

それだけ。

きっと後に迫り来る睡魔に負けて俺は寝てしまうだろう。起きたら再生途中の皮膚や肉の断面を包帯で強く縛られて、目隠しをされたまま車とかで屋敷に戻っている。

それだけ。


ピ、ピ、と耳鳴り程度の不明瞭さで機械音が鳴り響いた気がした。



[3] ちょっとだけの

投稿者: 投稿日:2019年10月27日(日)15時13分0秒 fp276fc537.stmb229.ap.nuro.jp  返信

 自分の身の丈に合わない背伸びをしていると、当たり前だが疲れてしまうもの、らしい。
 自分は、歳に合わず大人しい方だと思う。その自覚はある。同年代の仲間と比べたら、運動も出来ないし。
 けど…、けれど、時折、……なんと言ったら良いのだろう。はしゃぎたくなる時があるんだ。……今日が、偶然そんな日だった。
 既に外にいる仲間達と遊ぶ?いや、自分が入ったところで、着いていけなくなるのが見える。なら我慢してライブラリーに赴いて本を読むか、自室で自習でもする?否、今の自分の気持ちが抑えられないのでそれも駄目。
 …、ならどうするか?答えは簡単である。

 一人で外に出る、だ。

 一人の方が気が楽であるし、なんか、他の仲間と混ざるのは気恥ずかしい、し。なんとも我儘である。でも、たまには我儘くらい許されたっていいだろう?
 サルーンから外に出る。幸い、誰かには見られなかった様だ。取り敢えず一安心。
 特に目的もなく、屋敷の外を歩く。程よい風が気持ちいい。
 外を見渡せば、大きい木が目に入る。今、自分の居るところから少々距離がありそうだ。不透明な銀の瞳で捉える。
 ………走るか、彼処まで。
 あの木の下の木陰は涼しくて気持ち良さそうだ。きっと、彼処まで着くのにだいぶ疲れてしまいそうだけど、きっと大丈夫だろう。謎の確信だけど。
 サク、サクと歩みを進める速度は速くなって、制御が外れた様に走る。体に受ける風は、何時もは感じない様な気がして、とても新鮮だ。
 何も考えずに走る。木の幹が近付く程、自分が疲れていくのが良く分かる。
 ………どれくらい走ったのだろう。伸ばした右手が、幹に触れる。片手を膝について、呼吸をする。
 久し振りに全力で走った気がした。だいぶ苦しいが、そんな辛いとは思わなかった。その勢いのまま、芝生に倒れ込む。
 両手両足を投げ出して、空を見る。
「………今日も、空は蒼いなぁ………」
 気付いたらそんな事を言っていた。動きにくいので、ベストのボタンを外して、クロスタイも緩めて。ゆっくりと深呼吸をして、息を整える。

………何時までそうしていただろうか。日の光に少し橙色が混じって来たので、そう遠くない屋敷に帰ろうと体を起こして、帰る方を見ると。
 窓から、見慣れた人物が目に入る。… 金髪の髪を持った、最年長の彼が。
 パチリと目が合って、暫く唖然としていたら、手を振られた。「見えているぞ」と言わんばかりに。
 其処でやっと状況を理解して、ぶわりと顔が暑くなる。
 …嘘だろ、何時から見られていたんだ?あの様子、最初から見られていた様な………。
 ………取り敢えず、帰ろう。色々言ったり言われたりするのは、その後だろうから。



[2] 平常とは、汚れ狂い愛することだという。

投稿者: 投稿日:2019年10月25日(金)21時01分20秒 222-229-113-169.catv.medias.ne.jp  返信   編集済

________ 。


部屋中に駆け巡る花瓶と花の金切り声が、俺以外の誰かに届いたらどうしようか。
足元に散ったステンドグラスの花瓶と、太陽のように眩くて大きくて綺麗な花を靴底で踏み締める。
粉々なソレと、水浸しの床、浮き上がる床の黒ずみが次第に赤色を蘇らせて、まるで水死体のように見えてきた。
吐き気がして、腹立たしい。
無駄に満開に咲き誇った花の正面が、誰かに似ていて、床が鈍く音を立てるけれど、何度も何度も踏み鳴らして踏み潰して、綺麗で美しかったその面影を消した。
独特な水の香りと、死んだ花の芳香が、鼻腔を諄く刺激して、頭痛を覚えた。




________。

「うるっせぇなぁッ…………。」


ガン、と物音を立てて机に倒れる。
脳を侵食して響き渡る残響に眉間に深くシワを刻み、声色は地鳴りのように低く、それでいて怯えるように震えさせてしまった。
整頓していた机上を思うがままに乱れさせ、未完成の押花を乱暴に床に叩き付ける。
ヒラリと舞った無残な紫色の花弁が蝶の羽みたいで、鬱陶しくて、それも手で薙ぎ払って、足の裏で床に擦り付けよう。
君たちが来たらきっと、怖がらせてしまうな。



________。

俺自身を助ける道を塞いでしまおう
。君たちが異変に気が付いて部屋に辿り着けても、開けられないように。
喉仏までにせり上がった嘔吐物を飲み飲んで、力任せに椅子を扉へ投げるように運んだ。
薄っぺらい扉が椅子を受け止めて、嫌な音を鳴らす。
大丈夫。
大丈夫。
君たちが不安がることなんて何一つ無いんだ。
これは俺の問題で、俺の抱えるべき罪で、
おれの…………「ぅ゙…っぉ゙え゙…………っ」


窓が開いているんだっけ。
ヒューヒューと聞こえる空気の抜ける音に、眩しいレースカーテンの向こうを眺めた。
口からはゴポリと嘔吐物が湧いてきて、ビチャリと下品な音と共に床に落下する。
膝が痙攣して俺を汚い床へと押し付けた。
破片が足に刺さる。
殺してしまった花弁が肌に張り付く。
蘇った死人の面影が俺に絡んできて、
嘔吐物の上へと嘔吐物を重ねた。

なんでこんなにも苦しいのか、渾沌とした馬鹿な脳みそじゃ考えられない。



______グルッペン。

______グルッペン。

______愛おしい私の息子。私の体温が恋しいかい。


「おと、お父様ぁ゙……すみませ、ごめ、ごめんなざ、おれ、お、れ゙、あなたのこと、こ、こ、ころして、まっかで、さ、さよなら、ざよなら、したのに、おれ、なんでここに゙っ……」


大粒の雫が、曇天の空に降る。久しく流した雨は塩っぱくて、その理由も、原因も、なぜ俺が泣いているのか理解が出来ずにいた。
鼓膜に馴染む俺に似た低音が優しい音色ではなしかけてくれる。
ぐちゃぐちゃの床をもがく様に撫でると、棘のような花瓶の破片が掌を傷つけて、足から流れる血液と混ざって少しずつ、少しずつ、お父様の死んだ余韻に重なって更に存在を濃くしていくだろう。
後ずさる先から見た光景が、暗がりの中で焼き付いた景色と重なって、全く情けなく、泣き叫んで、怯えて、貴方に縋ってしまうかも。



「と、ぉさま、っ、な、なん゙、で、おれ、ころしてなんか、っ゙、ごめんなざ、ぃ、ご、ごめんなさ、っ゙…」


大丈夫だと、耳元で囁かれる。幻聴か、もしくは。

髪が揺らいで、何だか温かい感触がした。
頬を撫でられて、糸で吊るされた人形みたいに天井を見上げる。
肩が脱力してしまって、足から力が抜けてしまった。大嫌いで大嫌いで大嫌いで大嫌いで、それでも殺してしまったことに罪悪感はあって、それでもそれでだって縋って仕舞うほどに頼り甲斐のある貴方が、見えた気がした。
その顔は微笑んでいるの?
哀れだと笑っているの?
殺したことを恨んでいるの?
反抗したことを怒っているの?
分からないな。けど、大丈夫なのは確かかも。貴方が耳元で囁きながら、俺の身体抱き締めて、優しく撫でてくれるから。


________。

サラリとレースカーテンが揺れた。
窓が閉まっていなくて、遮るものがなく風に揺られて浮いている。
射し込む光か床の硝子と俺の嘔吐物を照らす。
無残な姿の花が血に塗れて、綺麗な姿へと生まれ変わっていた。
悲惨な部屋。
扉を抑える椅子に背を預けて、更に脱力した。
貴方の声がまだ聞こえる。
聞こえる度に安心してしまう。
とても気に入らない。とても腹立たしい。とても愛してしまっている。その声と、優しさを。

「…………………………。」
「…………………………………………。」
「……………………………………………………。」


悲しさと、怒りと、興奮と、不快感を混ぜて、虚無にかえる。
まさに糸を切られた人形のようだろうか。
自分の涙で濡れた頬も、吐き出したもので気持ちが悪い口の中も、割った花瓶の破片で抉れた足と手の肉、そこから流れる血液も、何が原因で何が理由でなんでこうなってしまったのか分からない。
記憶が時間を重ねるにつれて薄れていく。


「……疲れた。」






ああ、片付けをしなければ。
どうしてこんなに汚れているんだろうか。
きっとまた、実験帰りに体調でも崩したんだろう。
ステンドグラスの花瓶も、太陽みたいに眩しくて大きくて綺麗な花も、お気に入りだったのにな。
窓を開けたまま暫く帰らなかったから、烏が壊していってしまったのかもしれない。



[1] 日常の切り取り

投稿者: 投稿日:2019年10月21日(月)21時50分55秒 fp276fc537.stmb229.ap.nuro.jp  返信

 気が向いた、のだろうか。時々、自分自身で自分の事が分からなく感じたりする。今日も、そんな日だった。
 肌寒いこの季節。しかし、外の日の光がとても暖かそうだったから…、だから外に出たのだろうか。本を片手に、サルーンへ向かう。久しく日が出ていなかったのもあったのか、やんちゃな仲間達は外ではしゃいでいるようだ。
 自分の足にぴったり合った靴を履き、ゆっくりと扉を開ける。ぶわりと吹く風。少し寒いと感じたが、きっと直ぐに慣れるだろう。外で遊んでいる彼等に迷惑が掛からず、本を読むに最適な場所は無いだろうか…、そう思いながら辺りを見渡すと、丁度良さそうな木陰があった。太い幹に身を預け、栞を挟んだページから読み始める。
 _________暫く経っただろうか。日の光が橙色に染まりつつあった。そろそろ帰ろう、と顔をあげる。すると目に入った、きれいな、ひらひた飛んでいる"ナニカ"。其れは自身が魅入れてやまない蝶だった。一匹かと思ったソレは二匹居て。純白の羽をもった蝶と、黄金色の羽をもった蝶。お互いがお互いを支え会う様に飛んでいて。自然と、見えなくなるまで目で追っていた。
 もう暖かいとは言えない季節。何故居たのかは分からない。ライブラリーに行けばきっと理由が分かるような本が置いてあるだろう。そんな事を考えたが、高揚感で胸も頭も一杯だった。まさか、こんな偶然が重なるなんて思ってなかったから。確かあの蝶同士は名前が似ていた筈だ。今だけ、蝶の標本を持ってない自分が恨めしくなる。…外に出ようと気紛れたのは、もしかしたら蝶が見れるかもしれないと無意識で思っていたのだろうか?……いや、そんな偶然有るわけないか。
 遠くから聞こえる仲間の声。其の声で、ふわふわとした感じから現実に引き戻された様に感じた。また心配をさせてしまったか、と苦笑する。何時もとは違う笑顔を浮かべて、手を振る。

 ……たまには、外に出てみるのも良いじゃないか。


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